さっそく山側校舎の二年生の教室に向かった。足立くんは自席に座って、左手に厚めの冊子、右手にスマホを持って真剣な表情だ。扉の所から呼びかけると、それを持ったまま廊下に出てくる。図書室で見つけたラグビーの理論書と、スマホの画面にはグラウンドで展開されているラグビーの動画。

「あいつらに、教えなくちゃいけないことが、たくさんありますからね。オレが、先輩に教わったことだけじゃ物足りないし」

「で、勉強してたんだ」

足立くんの表情には、したたかさが浮かぶ。

「月曜日を、ラグビー部優先にしてもらったよ。山田先生からお話があった」

「楽しみです。でも、和泉先生にも勉強してもらわなきゃ」

「頑張るけどさ、足立くん、定期試験も近いよ」

少しわくわくした気分もあるけれど、昼休みの終わりを告げる予鈴が響いた。

もう一度足立くんと笑顔を交わし、職員室に向かう渡り廊下に出ると、女子生徒が二人、窓枠にもたれるようにして向かい合っている。こちらに顔を見せているのは海老沼さん。彼女が見上げるようにしている後ろ姿の子は、すらりとした背中に、ゆるくまとめている長い髪を輝かせている。

「和泉先生!」

海老沼さんの笑顔がこちらを向いた。

「E組の、末広桜子すえひろさくらこちゃん。今ね、一緒にマネさんやろうよって、誘ってるの」

末広さんは、佑子に向き直ってゆっくりと会釈した。E組の授業は担当していないので、初対面と言ってもいい。細面に、涼しげな目元。

「できるのかどうか、不安なんですけど。どうしようか、もう少し考えさせてって」

「大丈夫だよ。ね」

今度は午後の授業の始業ベルだ。早く教室に行って、と言うしかなかった。