気がつくと、露天風呂に裸で浮かんでいる自分がいた。その夜、その露天風呂に満天の星空を仰いで夜を明かした。そして、その日からというもの、私はKと共にクラと名の付く土地を旅して回った。
入倉、蔵内、戸倉、……と。それは孤独に病み疲れた私の人生で、最も楽しい時期となった。Kはすでに人生の大半をやり尽くして、余すところは死を求めて、何かしら未知の世界に赴こうとしていた。
彼はそれを私のクラの世界に見出し、私と共にしてくれたが、彼の命はほど無くして潰えたのだった。Kを失くしたあとの私の心象風景は、陽が沈むように亡びの影を帯びていった。私は彼の幻影を追うように、人里離れた山奥を訪ねて回った。原始の山野は悠久の水の流れと共に、人知れず息づいていた。
私はそんな源流のせせらぎを眺めて、時の経つのを忘れた。谷川の流れは澄みきって、白銀の川底から光り輝いているところもあれば、深緑色の淵に淀んで、底知れぬ不気味さを秘め隠しているところもあった。私は原始林のそんな狭間で、自然の息吹に抱かれて安らいだこともあれば、黒い蝶の群れが行く手を遮って飛びかうのを、不吉な気持ちで眺めたこともあった。
やがて、そんな山野が、暑さで縮れた夏草に蔽われる頃、私の体も夏負けして酒に喘いだ。そして、やつれたままその秋を過ぎ越して冬を迎え、Kの死から一年ほどして、私もまたアル中の末期症状に至り、風雪の荒野をさ迷い、死の淵に瀕していったのだった。