絹の領巾で婚礼祝い
「まあ! とても綺麗! この透き通った布は初めて見ます!」
「それは絹の糸で織りあげた領巾だ。以前、里人と武人の為に布を求め、里より五日かけて行ったクニで偶然見つけたのだ。なんでも異国から入って来たらしい。そなたの婚礼の祝いに、と翡翠の珠三つと交換して来た。そなたの美しさが一段と増して保些殿は喜ぶであろう」
そう言いながら、羅技はそっと領巾を掛けてやった。
「もう……。兄上様ったら~」
「玉虫の様にきらきらと輝いて、とても美しい領巾ですね!」
と清姫も顔をほころばせた。
「その領巾が欲しくて、亭主に前金替わりに塩を二袋渡しておいたのだ! 今まで何かと雑用があってなかなか買いに行けず、急ぎ馬を走らせて買って来た。たった今、里へ戻ったばかりで、夜遅く奥殿に来るのはどうしたものかと思案したのだが……幸姫の喜ぶ顔が見たくてな!」
幸姫は羅技に抱き付き、全身で喜びを表現した。
「こ、これ……! 泥と汗にまみれた我を、紗久弥が汚いと機嫌をそこねているに……。そなたの寝衣が汚れてしまう」
「幸姉姫様! とても綺麗~。私も姉上様の様に美しくなれるかなあ~」
「うん! 紗久弥は幸以上に美しくなるぞ!」
「本当?」
幸姫は清姫の前に赤い顔をして座ると、清姫はまた幸姫の髪をすきはじめた。
「今までず~っと不思議に思っていたのだけど……。清姉上様は左手しか使わないのは何故なの?」
紗久弥姫が尋ねると、
「私は、龍神様に仕える巫女姫です。神様へのお世話は神聖な右の手を使い、日常は左の手を使うのですよ」
「ふ~ん」
紗久弥姫はあいまいに相槌をうち、
「兄上様! 私もこの様な美しい領巾が欲しい! 今度、買ってきて下さいませ!」
と再び意識を領巾に戻した。
「そなたはコロコロとよく話が変わるなあ」
「ねえ! 兄上様、お願い!」
羅技は紗久弥のおねだりする可愛い顔を見て、くすっと笑った。
「お前が嫁ぐ時には領巾を二枚は買わなければ……お前は随分欲張りだからな!」
「兄上様のい・じ・わ・るー。私は欲張りではありませんわ」
「お前のその顔も可愛いぞ!」
「嬉しい!」
紗久弥姫は羅技に抱き付いた。