「本多さん、これはすごいですね。このデータを私が開発しているニューロンコンピューターに送り込めばいいのですね」
「その通りです。そうすれば生きたデータをそのまま脳の記憶の状態で外部保存できるのです」
「脳に問いかけ脳がそれに反応し、そしてあなたのコンピューターがそれをコピーするのです」
本多は少し自慢そうに、
「これは眼鏡型動画プレイヤーでゲーム用のコントローラーホルダーからヒントを得て作りました。これに映し出される景色に脳波が反応すると、脳に記憶されているデータが呼び出され、読み取る仕組みになっています。読み取られた脳波はAIの中に取り込んで保存されます」
伊藤は少し興奮気味に、
「脳波を読み取るだけなら機械的にさほど難しくはないが、脳の中の電気信号を読み取り、一連の動画として脳内記憶を呼び出してAIに記録するのは今までにないことです」
本多は
「寝ている記憶というか本来思い出す必要がない記憶を読み取るには、脳に昔懐かしい刺激や読み取りのヒントとなる刺激など何か与えないと不可能です。深層意識の中に潜り込んでいる記憶を読み取ることができないのです。井戸の水をくみ上げようと思ったときに呼び水を流し込むのと同じように、過去の出来事や学校生活、家族や友達、社会現象やテレビ番組などの情報を刺激剤として脳に与えると、その当時の記憶が深層意識の中からあふれ出てくるのです」
伊藤は
「どうやって脳の深層意識に呼びかけるのか、そこがポイントになるんですね」本多は「その通りです」
と、相槌を打つ。続けて本多は
「私は少しずつ出てきた記憶を繫ぎながらその人間が生まれてから脳に残っているすべての記憶を引き出す方法を確立したのです」
と少し自慢そうに話した。
本多は記憶喪失や、高齢者の記憶障害がどのように発生し、また突然もとに戻ったりする脳波の動きを分析する研究を長年してきた。本多と伊藤の研究が思わぬところで繫がった。