第2章 出会い
織田はもともとが機械工学の研究が大好きな人間である。そんな織田の目にかなった青年で、アイデアだけでコツコツ研究していて、ORITA財団から資金援助を受けている中の1人にロケット研究の堀内がいた。
堀内は当初研究資金の調達にクラウドファンデイングを組んでいたのであるが、なかなか思うように資金が集まらない。そんな堀内のひたむきな研究努力に織田は自分の若い頃の研究者としての姿を重ね見た。
堀内が開発しているものは地上と宇宙を飛行機のように往復できる高性能エンジンである。燃料は水素と酸素の化学反応による爆発で推進する仕掛けではあるが、従来の水素ロケットエンジンとは出力が2倍も違う。何度も失敗を重ねたが、燃焼効率はどんどん上がり、そのエンジンは着実に完成に向かっていた。
この堀内は、エンジンと燃料のことはわかるが、エンジンの制御を行なう制御盤やコンピューターシステムのことはさっぱりであり、そこで頼りにしていたのがAI研究のスペシャリスト伊藤である。
伊藤も堀内と同じく全くの研究馬鹿と言うか、離俗した人間であった。伊藤の研究はAIが人間の脳と同様に考えることができ、自立で思考を行なえるようにすることである。感情を持ち自ら学習し、そしてそれを必要に応じて応用する。そんなコンピューター、いわゆる人工頭脳の開発である。
学究肌で必要な金のことには全くの無頓着、研究しだすと他のことには全く気が向かない性格で、コンピューターシステム会社の研究所で1人孤独に研究に没頭していた。伊藤が研究費に行き詰まったとき、堀内に研究費の相談をしたが当然堀内も金のことは全くの無頓着、そこで堀内は伊藤をいつも資金援助してもらっている織田に紹介した。
その後、織田は伊藤や堀内を我が子のように可愛がり、彼らの研究費を援助していたのである。一銭にもならないロケットの研究と、人と話すこともない孤独人間、2人とも織田から研究費の援助がなければ生活すらできない、似た者同士の貧乏研究家である。