第二章 希望

「塾の先生に勧められた学校があるんだけど、自分でも調べてみたいなと思って。それに……」

達也は分厚い資料を細かく見はじめた。

「それに?」

結花の視線にも気づかず、達也はひたすらページをめくり続ける。

「あった!」

「えっ? 何? 何? 何?」

いつもと違う達也に心配して近づいた結花が資料をのぞく。

「なあんだ、みそぎ学園高校じゃない。何かすごいことが載ってるのかと思っちゃったよ」

「え? 結花、この高校知ってるの?」

結花は腰に両手をあて、にんまりと笑った。

「みそぎ学園高校っていったら、偏差値六十五以上で県内でもトップクラスの進学校だよ。毎年、東都大学の合格者もいっぱいでてるし。達也くん知らなかったの?」

「いや、まあ」

「んもう。でも、進学校だからってだけじゃなくて、みそぎ学園高校のことは私、よく知ってるよ。お姉ちゃんが通ってるし。今、高校二年生だよ。言ってなかったっけ」

「うん、全然……ってかさ、お姉さんすごくない? 超頭いいじゃん!」

「私も一応、第一志望なんですけど。でも、成績の方は本当にまだ足りてないからがんばらないと。ねえ、今月末にみそぎ学園高校の説明会があるんだけど、達也くんもいっしょに行こうよ。お姉ちゃんたちの何人かもお手伝いで来るみたいだし」

結花の勢いに気圧された達也は、とりあえず了解する。

「やった、決まりだね。達也くんも絶対気に入ると思うよ。お姉ちゃんが入学する時にオリエンテーションがあったんだけど、その時に私も連れていってもらったんだ。もうその時からの憧れなんだ、みそぎ学園高校」

結花の言葉に、達也もみそぎ学園高校への関心が高まっていく。

「それにね、もし私が合格できたら、またお姉ちゃんといっしょに登校できるし」

結花の笑顔に輝きが増す。

「楽しみだね、説明会」

結花に負けないくらいの笑顔で達也は軽くうなずいた。いつのことだったか。何かの拍子に、結花は自分が幼いころ、母親を病気で亡くしたのだと言ったことがあった。そんな結花には姉の存在がきっと大きいのだろう。

窓の外からかすかに笑い声が聞こえた。

「結花、この声ってさ」

苦笑を浮かべて結花が答える。

「うん。木嶋先生だね。朝練終わったんじゃない?」

「八時過ぎか。チャイムよりわかりやすい人だよな。そろそろ行こうか。鍵は職員室へ戻しておくよ」

二人が図書室をあとにすると、間もなく予鈴が鳴り響いた。みそぎ学園高校か……。あの人も説明会の日に来るのだろうか。達也はその日、窓の外ばかりを見ていた。澄み切った秋の空に、ほぼ同じ大きさの雲が二つ、遠くの空へと流れていった。