3)薬を飲み忘れたとき、2倍量飲むとどうなるのか?

本章2)項の中で薬を飲み忘れた際の常套文句を紹介しましたが、今回はその中の「決して2回分を1度にのまないように」を取り上げます。

①決して2回分を1度に飲まないようにとは

この解釈は恐らく定常状態の有無、つまり薬の血中濃度半減期と投与間隔の関係で変わってくると思われます。20一般に投与間隔(τ)の間に半減期(t1/2)が4つ以上入るような投与方法の薬であれば定常状態がない薬で、3つ以下のような投与方法の薬であれば定常状態がある薬といわれています(第1章−1)項)。

1.定常状態のない薬(条件:τ÷t1/2≧4)

一般に半減期が短くて1日3回服用するような薬になりますが、ここでは過活動膀胱に利用される抗コリン薬オキシブチニン(先発薬ポラキスⓇ)を例に挙げましょう。半減期は約1時間で1日3回投与の薬になりますから、8時間÷1時間=8>4で、定常状態が無い薬の典型例といえるでしょう(図1)。

写真を拡大 [図1]オキシブチニンの血中濃度推移

Qflexを利用した血中濃度シミュレーションは図1のようになります。1回飲み忘れて5時間もしないうちに血中濃度はゼロレベルになり、もし次の服用時間に2回分を飲むなら血中濃度が2倍になるのは明らかで、必ずや薬理作用型の副作用が現れるはずとなります。

2.定常状態のある薬(条件:τ÷t1/2≦3)

半減期の長い薬が定常状態のある薬になりますから、ここではCa拮抗薬で降圧薬として利用されるアムロジピン(先発薬ノルバスクⓇ)を例に挙げましょう。半減期は約36時間で1日1回投与の薬ですから、24時間÷36時間=0.67<3で、定常状態がある薬の典型例といえるでしょう。

図2はアムロジピンを1日1回5mg飲み続けた場合の図ですが、試しに次のように3つの飲み忘れ対策をした例を紹介してみます。

写真を拡大 [図2]アムロジピンの血中濃度推移

(1)初めて(0day)飲み始めてから毎日飲んでいましたが、8日目の薬を飲み忘れて、気がついたのが遅かったため次の服用時間に通常量の5mgを飲み翌日5mgを飲んだ(図3のa)。

→薬剤師の説明通りに飲んだのに血中濃度が上がらず、血圧がしばらく高めだった。

(2)同様に毎日飲んでいましたが、8日目を飲み忘れて、気がついたのが遅かったので次の服用時間に通常量の倍量10mgを飲んで、さらに翌日は通常量5mgに戻して飲んだ(図3のb)。

→薬剤師の説明を守らず倍量を飲んでしまったため、血中濃度が少し高くなり副作用が出るかも。

(3)同様に毎日飲んでいましたが、8日目どころか9日目も忘れて、気が付いたのが遅かったので次の服用時間に通常量の倍量10mgを飲んだ(図3のc)。

→薬剤師の説明を守りたかったが、さすがに2回忘れたので倍量を飲んで翌日は薬剤師の説明を守って通常通り5mgを飲んだら、意外に血中濃度は適切な位置にきて血圧も良かった。

写真を拡大 [図3]飲み忘れ時の血中濃度推移

②まとめ

・半減期が長い薬ほど、そして飲み忘れてからの時間が長いほど、定期の服用時間に2回分を一度に飲むと血中濃度がすぐに適切な濃度に回復することが分かります。つまり2回分を飲んでは絶対ダメとは言い切れない薬もあるようです。場合によって1.5回分を飲めばよいという薬もあります。

・ただ現実的には2回分の薬を一度に飲むと急速に血中濃度が上昇することで生じる思いもかけない副作用が出る可能性もあるので、安全性を考慮して常套文句通り、飲み忘れた分を合わせた2回分を飲まないようにと指示するのが患者さんに最も分かりやすく、指導する薬剤師も説明しやすいでしょう。

・しかし血中濃度を速やかに回復した方が良い緊急性を要するタイプの薬(2)項で示した抗てんかん薬等)では悠長に時間を空けていられないかもしれません。飲み忘れに気が付いたときに、すぐにいつもの量を飲ませて次に飲む間隔を適宜空ける応用力を生かせるかどうかでしょう。一般の方はぜひともかかりつけの薬剤師に尋ねてください。