究極の選択
さてこの段階で、和子さんと春菜は大変な判断をしなければならなくなった。
一つの選択肢は、益田医師が説明した“胃瘻”を造設し、その穴から栄養剤を注入して栄養管理を行っていく。胃に穴は開けるが、身体維持に必要な栄養は確保される方法を採るということだ。(選択1)
もう一つの選択肢は、益田医師はその場では説明しなかったが、胃瘻を拒否し、別の方法を選択するということだ。
ところで、益田医師は中心静脈栄養の継続を考えていなかった。中心静脈栄養を継続する場合は、鎖骨下の静脈にリザーバー付きのカテーテルを挿入し、リザーバーの部分を鎖骨下の皮下に埋め込む手術を行うことがある。通常は大腸ガンなどの術後の化学療法をスムーズに実施するために、一時的に埋め込まれるのが普通である。
数か月~数年にわたるような長期間、リザーバーを留置することはあまりない。やはり感染のリスクが大きいからだ。身体に異物があるという状態は、非常に感染の危険性が高いことなのである。
結果的に提案される対案は、鼻からの経管栄養を継続し、気道感染が合併した段階で胃管を抜去し、その後は1日1000ccくらいの糖液の点滴静注にて、主に水分管理を中心に行っていく方法である。だが、この方法は、徐々にではあるが、タンパク質や脂肪といった重要な栄養素が補給されずに、低栄養が進んでいく栄養管理ということになる。(選択2)
さて、あなたならどちらの選択をしますか。自分の問題として、あるいは自分の妻や夫、父や母の問題として、この『究極の選択』に対してどのような答えを出しますか?