詳細設計もかなり進んだ、ある日のことでした。

西田さんは書類のコピーをとりにコピー機のところへ行き、何気なく自分の机に戻ってきました。そのとき、西田さんの上司のA部長は席を空けており、A部長の机の上には書類が山と積まれていました。

西田さんはA部長の机の横を通りかかったときに、A部長の机の上に積まれた書類のなかから、1枚の紙が半分飛び出しており、その紙に自分の西田という名前が書かれているのを発見しました。幸い、A部長は席を空けていましたので、西田さんは何だろうとその紙を引っ張り出してみたのです。

その紙は、詳細設計グループの名前だけで出された文書で、すなわち詳細設計グループの個人名は一切書かれておらず、基本設計グループの各部長に回覧されるようになっていました。そしてそこには、次のような信じられない内容が記載されていたのです。

件名:西田和夫の件

基本設計グループ各部長へ

お前たち基本設計グループの西田和夫は、我々詳細設計グループに対する態度がなっていない。詳細設計グループは、今後西田和夫が関与する仕事には一切協力しないので、そのことを肝に銘じておけ。

詳細設計グループ

西田さんがこれを読んで、仰天したのは言うまでもありません。

自分は一生懸命にやってきたのに、詳細設計グループが自分をそんなふうに見ていたのかというショック以上に、会社のなかでそのような文書が自分の知らない内に回覧されていたこと、また回覧されていたにもかかわらず、基本設計グループの各部長、とりわけ上司のA部長が自分に何も言ってくれなかったこと、さらには、A部長をはじめ、基本設計グループの各部長が誰一人、自分を援護してくれなかったことに大きなショックを受けたのです。

昔、永田町で、国会議員の醜聞を署名せずにビラに書いて、各所に配るということが行われており、これらは、いわゆる「怪文書」といわれていました。また、日常生活においても、娘さんがバレエを習っていて発表会の主役に抜擢されたところ、匿名で「発表会までに怪我(けが)をすればいいのに」というようなことが書かれた嫌がらせの葉書が来るようになったといった話はよく耳にします。

そういった怪文書が、実は会社のなかでも出回っていたのです。自分の名前を書かず、標的の目に触れないように巧妙に誹謗(ひぼう)中傷する文書を回覧して標的を攻撃するというやり方は、実に巧妙であり、そして実に卑怯な方法です。

この事件は、西田さんの心に深い傷を残し、結局、そのあと数年して西田さんは会社を辞めて、別の会社に移っていきました。私は、西田さんが会社を辞める直前に、西田さんから直接この話を聞かされたのです。このような卑劣なことが、会社のなかで現実に行われているという話は、私にとっても大きなショックでした。

皆様の職場ではいかがですか? 知らない内に、ご自分を誹謗中傷する怪文書が出回っているということはありませんか? お気をつけください!