ライオンバーム

ライオンバームには

なにかしらライオンのエキスが入っているのだと思っていた

だって

馬油(バーユ)というものもあるのだし

ガマの油は

四六のガマを鏡で囲って

おのれの姿を見せて

タラーリタラーリと流した汗を

トローリトローリと三七

二十一日間煮込んで作るそうだが

ひびわれ あかぎれ 腫れ物一切

虫歯に効く

万能薬という

ガマの油がカエルの汗ならば

ライオンバームはライオンの汗で

馬油は馬の汗なのか

桜の花というクリームもある

あれは確か桜のエキスが入っていたはずだが

桜は鏡を見せても

我が身に見惚れるばかりで汗はかくまい

子供の頃読んだままの題名では

もう呼びづらくなってしまった絵本に出てくる

あのトラのバター

あれみたいに

ぐるぐるとライオンが木の回りを

目にも止まらぬ速さで走っているうちに

溶けて美味しいバターになったとさ

というなら

そのバターは舐めてみたい

ライオンバームの製法も

もしやそんなふうなら楽しいが

よもや工場で

何万というライオンがとらわれ

鎖につながれ

ウォーウォーと吠えながら

狭いケージに押し込められ

油を搾られているのではあるまいか

それでは全くやりきれない

なんだって人間様はやりかねない

心配になって

成分表をためつすがめつ見てみたが

どこにも「ライオン」の表示はなくてホッとする

もし人間を搾ったら

なにが出るのか

どんな効能があるのか

いやもう

人間はギュウギュウに搾られて

なんにも出ません

誰だって搾られる側より

搾る側がいいに決まってる

そうしてみんな我勝ちに

他人の首を絞めにかかって

もうすぐみんな共倒れだ