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父と2人で暮らしたこと
私の祖父は高名な僧侶でした。
まだ僧侶という職業が、現在より尊敬されていた時代です。
雑誌や新聞の取材も受けて、論文や書も多数遺していました。ときおり政治家も訪れるような家庭でした。私の母が父に嫁いできた背景には、この祖父に対する敬意がありました。
それなのに父はというと、夫婦げんかがひどくなると決まって
「今から線路に行って電車に飛び込んで死んでくる」
というのです。夫婦げんかのたびに、母にこのせりふを吐いては、
「お義父さんは偉いお坊さんなんだから、あなたがそんなことをしたらお義父さんの名に傷がつく。お坊さんの息子はそんなことをしたらいけないよ」
と、たしなめられていました。私に対しても同じことをいう父に対して、
「この人は最後まで変わらないんだな」
と思うと同時に、徐々に駄々っ子になっていく様子に、家族の終わりの近いのを感じていました。
亡くなる2年前ぐらいまで、昔のように私を怒鳴る父でしたが、だんだんと論点がずれていき、空威張りをする父の弱さも私は思い知っていました。
男親というものは、異性ということもあり、娘とどう接してよいかわからないと、怒鳴ってねじ伏せようとするのだと思います。