一般的に入社時期は四月が多いですが、IBCSは四月、八月、十月から選べました。八月と十月を選ぶと、入社までの間、会社が多少補助をしてスキルアップなどの支援をしてくれると言うのです。すぐに働く気のなかった私は、当然のように一番遅い十月入社を選びました。父からは「どうして四月から働かないんだ」と苦い顔をされましたが、入社までの間、好き勝手なことをさせてもらうことにしたのです。
周りの同期は留学や資格取得に時間を費やす人が多かったと思います。私は何をしたかというと、地元の個人塾でバイトをしました。小中学生を相手に英語を教える先生です。古い居酒屋にあるようなコの字型の席の真ん中に先生が座り、四~五人の生徒をまとめて教えるのです。
大手塾ではないので、通う生徒はどちらかというと学校の授業についていけないような落ちこぼれが多かったです。でも、そういう生徒こそ可愛く思えます。学校の先生ならご理解いただけるのではないでしょうか。はっきり言って、教えるというより生徒の話し相手になるのが仕事のようなものでした。
私はここで同じくバイトを始めた女子学生と親しくなり、三年程度付き合い婚約までしたのですが、結婚には至りませんでした。破局の理由は婚約してから彼女のご両親が多額のアパートローンを組み、彼女が連帯保証人となっていることがわかったからです。
付き合ううちに彼女の家庭は豊かではなく、奨学金を使いながら学生生活を送っていることがわかりました。社会人になっても奨学金の返済は続きます。そこまでならよかったのですが、連帯保証人となると彼女の両親が返済できる経済力はないのはわかっていましたので、彼女が負担、つまり私が負担することが目に見えてしまったのです。
彼女の父親に連帯保証人から外してもらうよう依頼しましたが、「お前の知ったことか!」と怒られました。結婚するなら連帯保証人から外れてほしいと彼女に頼みましたが叶わず破談となりました。私は冷たい人間でしょうか。あの時結婚していたらどうなっただろうと思います。
長くなりましたが、ご理解いただけましたでしょうか。修士課程に進学した理由、それからIBM出身の理由。どちらも不可抗力が働いており、宿命としか言いようがありません。かといってシステムに強いわけでもなく、似非(えせ)理系人材であるため、「あなたの強味は何ですか」みたいな質問が来ると、しどろもどろになってしまうのです。「理系人材と期待させてわりーな。でも悪いのはオレじゃなくて、運命だから」って心の中で反論するのです。