「バンド、やってるの?」
佑子が問いかけると、こくりと、子どものように頷いた。
「メンバーの編成がうまくいかないって、言ってたじゃん」
保谷くんが言う。
「だったら人手不足のラグビー部に来いよって」
石宮圭太くんと、後の二人は澤田紳治くんと前田 和くん。なごみ、と読む名前の通りの穏やかそうな笑顔で、1年D組の教室では最初に名前を覚えた子だ。三人とも軽音楽部に入ってバンドがやりたかったのに、他のメンバーとの間で楽器の編成や楽曲の好みが合わず、活動がスタートできずにいたらしい。
「あのね、私もバンドやってたんだよ」
佑子がそう言うと、三人ははっと顔を上げた。
「ラグビー部、やりながらね。三年生の時にはオリジナルまで作って文化祭で発表したんだよ。あれも、楽しかったな」
「和泉先生、パートは?」
石宮くんの目が、少し輝きを帯びる。
「ヴォーカルと、オリジナル作った時は作詞も担当したんだよ。ギタリストの子とキーボードの子が作曲してね」
「ラグビー部、やりながらですか?」
「だって、ベースとドラムは、やっぱりラグビー部だったんだもん」
そのドラマーが、実は現在の佑子の、私生活のパートナーなのだが。
「兼部だっていいじゃない。軽音の練習は毎日じゃないでしょ。ラグビー部に力を貸してくれるんなら大歓迎だよ」
佑子がそう言うと、三人が目を見交わしながら肩の力を抜いた。ラグビー部のメンバーが六人になった瞬間だった。