海辺の学校で
大磯東高校は小さな学校だ。
相模湾の広がりのほとりにあって、学校の正門が面している国道の、その向こうは岸壁を隔てて海岸になる。その海岸には日本初の海水浴場とされるビーチもあって、大磯町は古くからの保養地としての性格も持つ。
町は北側を丘陵地に守られて、穏やかな環境に恵まれている。少しだけ小高い位置にある駅を降りると、歴代首相に愛された町、などというポスターもあり、何より東海道の宿場町という歴史を秘めた町でもある。
その町の、東側に大磯東高はある。旧制の女学校をその起源に持つ伝統校ではあるけれど、古びた校舎は海岸に平行して二棟あって、海側校舎と山側校舎と呼び習わしている。それぞれの最上階北側の廊下から丘陵を見上げると、湘南平の鉄塔が町を見下ろしているのが分かる。
佑子は毎朝、大磯駅を出て坂道を下りながら相模湾を遠望する。住宅街を歩きながら学校に向かう道にもすぐ慣れた。ほとんどの生徒が進学を希望する、穏やかで静かな教室には、ゆるやかな、あるいは眠気を催すような空気が漂っている。
「和泉先生、いらっしゃいますか」
南の窓から差し込む陽光が眩しい。中間試験を控えた昼休み、保谷くんと西崎くんが職員室にやって来た。二人の顔には、何だか抑えがたい微笑が浮かんでいる。
「どうしたの?」
廊下に出てみると、二人の背後に三人の男子生徒がぎこちなく肩をすくめていた。
「こいつらも、ラグビー部に入れたいと思ってさ」
保谷くんがその内の一人の肩をつかむ。三人とも、保谷くんたちと同じクラスの子で、当然佑子もその子たちを知っている。
「いや、オレ軽音に入ってるからムリって言ったんだけど」
保谷くんに肩をつかまれた子は石宮くん。体を縮めるようにするけれど、尻ごみしながらもわざわざ職員室にまで同行してきたのだから。