司会者と記者たちが激しくやりあっているうちに、笹野たちはホールを出た。笹野は何故だか、婆須槃頭と今日のうちにもまた会えるような気がしてならなかった。

内山と二人で廊下を歩いているうち、突然、二人の前に先ほどのマルトの扮装をした男優の一人が道を塞いで話しかけてきた。

「日本から来られたジャーナリストの方達ですね。あなた方と話をしたいと所長や監督達が待っておられます」

流暢(りゅうちょう)な日本語だった。笹野と内山は顔を見合わせ頷きあった。

「やはりと言おうか、なんだかこうなるような気がしていたよ」

笹野たちは男優の後についていった。やがて、二人は一室に案内された。入室するとそこは華美さを一切打ち払った応接室だった。そこにはすでに三人の人物が座って二人を待ち構えていた。三人とも先ほどの会見の中心人物である。

「ようこそ、当撮影所へ。日本からのお出ましを歓迎いたします」

ハービク所長が立ち上がり、笹野と内山とに握手した。そして、ハマーシュタインと監督の涯鷗州も立ち上がって笹野たちと握手を交わした。

笹野は近距離でハマーシュタインと涯監督を見比べた。どちらも重厚な風格ながら、近づきがたい印象ではなかった。