去年〜学生最後の一年〜

まさか、試しに受けた大手コンサル会社から内定をもらえるとは思っていなかった。マスコミ志望というこだわりをあっさり捨て、就職活動を終了させた。同級生からの「奇跡!」「信じられない!」という声を否定はしない。俺より努力していた学生が、お祈りされた人気企業だったのだから。

とにかく俺の就活は成功したと思っていた。大成功といえる。しばらくは浮かれていたし、調子に乗ってもいた。「人気企業から内定をもらえた」ということで、自分が社会的に認められたように感じた。就職活動中「自分は大天才ではないかも知れないけれど、それでも自分にしかできない何かが世の中にはあって、それを成し遂げる力がある」と信じようとしていた。人気企業からの内定は、その根拠がない願望に自信を与えてくれた。

振り返れば、たまたま良い会社に就職が決まったからといって、それが「自分にしかできない何か」を成し遂げる保証になんてならない。けれど就活生なんてそんなものだ。少なくとも俺はそうだった。とにかく鬱々とした就活の時期を大成功で切り抜けて、人生は万事順調に進むような気がしていた。

でもそんなことはなかった。全てが順調にはいかない。就活の緊張感から解放され、ひたすらだらけまくった後「残りの学生生活を充実させよう」という気持ちが高まってきた夏の終わり、二年以上付き合っていた彼女に振られた。別れは突然で、向こうから切り出された。

別れる数日前には一緒に夏祭りに行って、彼女も楽しんでくれているものと思っていた。別れの理由はいくつかあげられたが、それが本当の理由だったのかは分からない。俺は翻意を求めたが無駄だった。せめて泣かないように精一杯ふんばった。そういうわけで九月にはもう内定の喜びなんてなく、気分はどん底だった。