「私も普段は夢なんかいちいち覚えていないんだけどね」
それなのに先日見た夢は、海の青さや砂の熱さまでよく覚えている。ショックなのは静真が夢に出てきたことだ。あまつさえ仲良く手つなぎまでしてしまった。勿論、そこまで海人に話したりはしない。
「神﨑さんとよく話すの? 学部も学年も違うでしょ?」
「いくつか同じ授業を取っているんだ。あいつ、なほ子さんと学年は同じだけど、年は三コ上だって知ってる?」
初耳である。
「ううん。浪人してたの?」
「あいつ、最初は俺と同じ年に医学部に入ったんだよ。それが解剖の授業で失神してそのまま中退して、文学部に入り直したんだ」
「本当? やっぱり情けない男ね~。ニホちゃんに教えてやらなきゃ」
「ニホちゃんって、あの静真に振られてた子? 男の趣味悪いね。まあ、あんなパッとしない子じゃあ、相手が静真でも高望みだと思うけど。あ、失礼」
「いいえ」
これがニホだったら「私の友達のことを悪く言わないで」と怒るだろうが、私はそんなこと少しも思わない。
「噂をすれば、だね」
海人が言った。
「え?」
「ほら、彼女だよね、"ニホちゃん"」