その三日後の晩、夕食を一人で済ませた幾世が寮にもどると、一足先に帰っていた坂元はリビングのソファーで頭を抱え座っていた。

「おぅ、帰ってたのか」

「……」

反応がない。

「どうしたんだよ」

「昨日、彼女に結婚してくれって言われた」

「お前は本当に彼女が好きなのか」

「好きだけど、結婚は考えられない」

「まだ病院に行ってないのか」

「近いうちに有休とって一緒に行ってみようとは思っているんだけど」

「事が大きくなる前に、本当に妊娠しているのか確認しないと」

子供ができたからと言って、日本人に結婚を迫る女の話を幾世は何度も聞いていた。そういうケースの半数は女の嘘だとも聞いている。

そんな話をしている時、寮のドアがゴンゴンと大きな音でノックされた。幾世はドアスコープを覗き、外の様子を見た。見知らぬ小太りの中年男と小柄な女の子が立っていた。もしやと思い、坂元に確認させると、女の子はアナベルだった。幾世がまずいと思った刹那、坂元はドアを開けてしまっていた。