高枝切りバサミ
寒い夜だった。電気はとうに止められていた。水道もいつ止められてもおかしくない。
私たち姉妹は身を寄せ合って眠っていた。冷気を寄せ付けまいと毛布を体に巻きつけても震えが止まらない。
もう幾日ものを食べていないかわからない。絨毯をほぐして口にしてみたりもしたが、飲み込むことができなかった。
ようやくうつらうつらし始めた時、まるで夢のように寝室のドアノブが回った。暗闇でよく見えないはずなのに、衰弱した私の目にそれはハッキリ映った。
そして男が入ってきた。
病気の妹は気づかず眠っている。
男は金目のものを物色している。
驚くべきことに男は泥棒だった。
これ以上私たちから何を奪おうというのだ。
どこを探してもなにもない。
イラつく男の後ろ姿をぼんやり眺めていると、隣で目覚めた妹が叫び声を上げた。
男は妹に飛び掛かった。
私は傍にあったアイロンで男を殴った。男は頭を押さえてころがった。
私たち姉妹は弱っていたが、チームワークは抜群だった。
私はアイロンのコードを男の首に巻きつけ、プラグのある方を妹が力いっぱい引っ張った。
私もアイロンを力いっぱい引っ張った。
男は暴れて妙な声を出し、やがてぐったりした。
こわくなって私たちは寝室から逃げ出した。
「警察に電話しなきゃ」
でも、電話も止められている。
一体、一文無しの私たちから何を盗もうとして、あの男はやって来たのだろう。
そう思うと、あんまり間抜けで笑えてきた。
一方が笑うと、もう一方も笑い出し、止められなかった。
きっと空腹すぎて、二人ともどうかしていたのだろう。
振り向くと、寝室の入口にフランケンシュタインのように男が立っていた。
私は腰を抜かした。
が、妹は俊敏だった。
玄関まで走っていき、置きっ放しになっていた高枝切りバサミをまるで槍投げの選手のように男に向かって投げつけた。
弱ってほとんど寝たきりだった妹のどこに、そんな力が残っていたのか。