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腐ったみかん
大人の嫌な面を見るたび、人の心が読める能力が上がっていった。特に私のことが好きか嫌いかは一瞬でわかる。数学のクレオパトラみたいな先生は私の本質を見てくれた。だから彼女が好きだった。だから数学だけは授業を聞いていた。
一方、担任は違った。私を蔑むような目をしていた。とてもとても醜い目。しかし教師である母の前ではいい顔をする。薄っぺらい見え見えの嘘。ある日彼は私に言った。
「君は腐ったみかんだ。君がいると周りのいい子たちまで悪くなる。学校辞めてくれないか」
これが進学校とやらの教育者の言う言葉か。
「母に伝えます。辞めた方がいいのは先生かもしれませんね」
担任は青ざめた。こんな風に私は相手によって態度を180度変えるような、大人からしてみればとても扱いにくい子だった。
高校2年生になり、担任は変わり、クラスも変わった。不思議と私の周りには友達がいて、それなりに楽しかった。
ある日、仲の良かった数人と遊びに行き、酒を飲み、タバコを吸い、一晩中楽しくみんなで遊びまわった。私にとってはそんなに変わった日ではなかった。ところがこれを告げ口した人がいたようだ。私と数名の友達は学校に呼び出され、法律違反を犯したことから、停学になった。
ここまでは良かった。数日後、担任から、
「あんたがみんなをそそのかしてお酒飲ませたりしたんやろ。みんなそう言っとる」
私は驚いた。みんなで楽しんだだけだけど。そそのかす? なにそれ。人を生贄にしてみんな自分を守りたいのだ。どちらかと言えば私は誘われた方だけど。まあいい私に失って怖いものはない。そして担任はこう付け加えた。
「まぁ、のぶこ(仮)以外だけど」
のぶことは2年生から仲良くなった。ぶっきらぼうだけど中身は優しい。目つきが悪いから誤解されることも多かったが、まっすぐで、いいやつだった。私が停学中、全校集会が開かれたらしい。
「このような事態は前代未聞であり、進学校としてあってはならないことであります」
政治家のようなコメント。思春期の子どもたちにその言葉がどれだけ響くのか、甚だ疑問である。その後、私だけ退学処分をくらった。みんなを「そそのかした」罪だ。
退学の日、玄関まで送ってくれた担任をバッグで一発殴ってやった。こんな学校に全く未練はなかったが、涙が出た。担任は生徒を全力で守るものではないのか。金八先生の見過ぎなのだろうか。
後日私を出し抜いた1人と折尾駅ですれ違った。さあどんな仕返しをしてやろうか、と考えていると、彼女は恐怖に慄いた顔をし、逃げるように私の前から去っていった。