軽く微笑んで、小笠原老人は周囲を見廻した。
「それで、野原さんのお仕事と言うか、警備をなさるんですよね」
「はい。と、申しますより今回ご指示いただいたのは、なるべく目立つようにパトロールしてくれとの事でして」
「鳩のミステリー・サークルですか?」
「はい。よくご存知で」
「私はくわしい事は知りませんが、その、死んだ鳩を集めて並べたのではなく、鳩を殺して、並べたのだとすると、怖いことですね」
「おっしゃる通りです。生きているものの命を奪ってした行為だとすれば、恐ろしいことです」
「想像される犯罪の、予防となると、これは警察の仕事になりますね」
小笠原老人はゆっくりと立ち上がった。
「いや、すっかりお喋りしてしまいました。お仕事の邪魔をしたようです。お許し下さい。でもお話しして楽しかった」
「こちらこそ。有難うございました」
「また寄らせて頂きます。体調の良い時に限りますが」
「大変失礼な事を承知でお聞きします」
私は思いきって尋ねた。
「お身体の方はどのような……」
「肺ガンの末期です。でもこのように歩けますので、陽気の良い時などはけっこう出歩いています」
ベレー帽を傾けて会釈した。
「本当にまた、寄せてもらいます」
ゆっくりと国道へ出ると、駅とは反対の方角へ歩いて行く。私は小笠原老人が公園に沿って右折して、姿が消える迄見送った。
昼に例の中華料理店へ行って、またタンメンを食べた。実に美味だ。これをつくったのがあのポニー・テールの若い女性だとは信じられない。味覚がよほど優れているのだろう。天性のものに違いない。
午後、ベビーカーの母親達とお喋りをした。私は歓迎されていた。
その後は、夕方迄何事もなく終った。