第三章 ガルシア牧場
第三話 故郷(ふるさと)との別れ
ある夜のことだった。突然、闇の中から三人の男が現れた。一人がコンスエラに向かって、ていねいな言葉で言った。
「奥さん、腹が減っているので、何か食べ物を出してくれませんか」
言葉はていねいだったが、その顔は、凶悪なことを平気でやりそうな危険な顔だった。コンスエラが断ろうと口を開くと、男たちは銃をちらつかせた。仕方なく、コンスエラが食事と酒を出してやると、三人はそれをがつがつと食べ、さんざん飲んで礼も言わずに帰っていった。家の外で心配そうに見ていた使用人たちは何事もなかったので、ほっとして眠りについたのだった。
それから一週間が過ぎたころ、家の外にいきなり何台ものトラックが止まり、バラバラと大勢の男たちが降りてきた。男たちは銃でおどしながら、コンスエラを取り囲んだ。口を開いたのは色の浅黒い、背の高い男だった。
「お前は、先週三人のならず者を助けてやっただろう。あれは俺たちの仲間を殺したやつらだ。敵を助けたということは、お前も俺たちの敵ということだ」
「ただ、食べ物を出してやっただけです」
コンスエラが言った。
「そんなことはどうでもいい。この牧場を取られたくなかったら、今すぐ一千万ペソ出せ。出さないなら、お前の命はないと思え」
彼らのような凶悪な男たちは、コカインという麻薬を作るために、コカの木を植える広い土地をほしがっているといううわさだった。ついにガルシア牧場が狙われたのだった。
「この牧場は私のものだ。お前たちに金を払う理由はない」
コンスエラはきっぱりと言った。男たちは家中を探し回って金になりそうなものをかき集め、それが済むとコンスエラをしばってトラックに乗せた。