定年後は学習に最適
晴れて、合格何とか、定年後の受験には合格することが出来た。
今回の受験では、間違いなく合格していないと思っていた。午前の試験で、間違い箇所があることが分かり、昨年の女性のように午後の受験は止めようと思い、荷物をまとめて受験場所を出ての帰りがけ、「フット」知らない若者と目があった。
目で会釈をされた為に私は頷いた。彼は、ベンチに座って参考書を数冊小脇に抱え、私を哀れそうな目で見て、訴える様な感じが伝わってくる。疲れたのだろう。
「午後の試験を止めるのですか」
私は、大きく頷いた。
「折角一年間努力してきたのに勿体ないですね」
「受けても、今の試験で間違えた。駄目だよ」
私を、睨むような強い眼力で、
「試験結果は誰にも判りません。難しい問題は、みんなが難しいから、その個所には合否に救いがありますから、午後も頑張ったらどうですか」
私は、なんとなくベンチの彼の隣に座った。
「僕は、五回目の受験だけど、毎回、合格間違いないと思って帰りますが、その度に合格しません。悪いと思っていた教科の点数が良かったり、自信のある教科が悪かったりで、評価を付けるのは受験者ではないのです。諦めたら駄目だと思います」
そんなこともあるのかなと思いながら、
「でもね……。間違ったところは分かるし合格しないのに午後の苦痛は厳しいな」
彼の口から、私を叱りつけるような言葉を聞いた。
「そんな程度の勉強しかしてないのですね」
私の心に突き刺さった。本当に心が痛い。何のために頑張ったのだろう。勉強中に自分の体から何度ブレーキ音を聞いただろうか。
毎日の三時間の努力。一年間に多くのやりたいことを諦めて受験勉強に時間を割いた。何よりも昨年の厚生年金保険科目での失点を思い出すと悔しさがよみがえる。
「そんなことはない。命を懸けて頑張った」
と言い返したいが、言葉が軽すぎて声にならない。
「僕も、何度も午後の試験を受けることを止めようと思いましたが、毎日、夜遅く帰ってから、歯を食い縛って努力したことを考えると、あまりにも、その努力が報われないと思い、考え直しました」