障害に対する無知・無理解、対応の遅れ
とりわけ衝撃的な事件として記憶に残るのは、一九九九年七月全日空61便ハイジャック事件である。
「機長刺殺しハイジャックしたジャンボで6分間操縦」「地上二〇〇mまで落下!」の新聞報道の見出しが踊った事件である(読売新聞99・7・22)。
犯人は、二十八歳の航空マニア青年でアスペルガー症候群だとされ、一部で実名報道までされた。これらの報道から少年犯罪とアスペルガー症候群の関連性が注目されるようになった。
しかし、発達障害が直接事件とつながっているわけではない。岩波(明)によるとアスペルガー症候群、広汎性発達障害と診断された少年犯罪には明らかな誤診や過剰診断が多いという。
「人を殺してみたかった」と証言した豊川主婦殺人事件におけるアスペルガー症候群の診断名に疑問を抱き、精神鑑定の不備を指摘している。
佐世保小6女児同級生殺害事件(二〇〇四年六月)についても小学六年生の加害者の少女について家裁のアスペルガー症候群の鑑定結果に疑問を示し、診断基準に当てはまらず、家庭的にめぐまれず父親から受けた虐待やネグレクトとの関係性を指摘している。
奈良高一母子放火殺人事件(二〇〇六年六月)について報道内容を見ると、暴力的な父親から要求通りの成績を取らないと激しい暴力にさらされ、学校だけが息抜きの場所だったという本人の証言が記されている。
全日空61便ハイジャック事件についてアスペルガー症候群とのからみでセンセーショナルに実名報道されたが一審の初回の精神鑑定はアスペルガー障害とされたものの、自殺企図や入院歴もあったことから二度目の精神鑑定では精神障害に変わっている。
発達障害が事件を引き起こすのではなく、障害に対する無知・無理解、対応の遅れ、障害ゆえに受けるさまざまな被害体験、対人関係の困難さ、他者に相談するすべを知らない孤立感が事件に巻き込まれる素地となりやすい。
特に虐待体験は深刻な結果を生みやすい。発達障害の早期の発見、早期対応が望まれるゆえんである。まわりの理解や対応が遅れた場合、不登校、非行、不安障害、うつ病、各種依存症など二次的に心の問題を惹起しやすい。