天龍実業新工場建設プロジェクト

業者との見積もり折衝では徹底して最適設計を追求し見積金額を調整した。予算設定と業者の見積もりを逐次本社経理部長に提出していた。

ほとんど即日社長によりそのまま承認された。社長の意思決定の速さと度量の大きさを痛感した。設備の特徴は計画通り、原料準備から成型、組み立て、検査、梱包までの流れ作業。

工程ごとに部品の在庫を置き、今でいうトヨタのカンバン方式みたいなものだった。建屋は計画どおり出来上がり、部品の詳細設計は試行錯誤の繰り返し、修正すべきは修正。試作品の成型、試運転を繰り返した。

主な設備が据え付けられ、それぞれの試運転が始まり、材料の仕様書、その運転条件設定、工程表、品質管理手順、など準備作業も終わり量産体制が整った。

製品の試作品を工場に展示し本社役員や各支店長が出席して説明会を行った。約二年半の歳月を要した。生産数は販売部との調整で日産台数が設定され、各支店に販売数のノルマが課せられた。

この時点で政裕のプロジェクトリーダーの任務は終わり、続いて生産管理を任されることになった。毎月、原価計算と詳細生産報告を本社に提出し、その度に役員会で説明し新しい商品開発の評議が行われた。

政裕はこの開発プロジェクトを完了して次のプロジェクトを模索し本社の指示を待っていたが退屈な毎日になっていた。この会社に採用され予定されていた任務を無事完了した現在、これからこの会社でどう生きていくかについて考えるようになった。

製品開発のスペシャリストになっていた自分の存在価値がこの会社には必要が薄くなっている気配を感じていた。西洋化成品で経験したような壁にぶつかったような複雑な心理状態になっていた。

簡単なことではないが会社を辞めて別の道を探すという選択肢を考えた。