ミプラコのセールスマンと労使関係
二人のイギリス人セールスマンの一人、フリーマン・ニュートンは全く気のいいおっさんだった。彼はバンクーバーに自宅がありタシス向けテラースクラバーのセールスコーディネーターだった。トロントは遠いので社長のミッキーにとって目が行き届かないところにいた。政裕はバンクーバーでいつもミーティングしたり飲みに行ったりしていた。ミッキーはタシス向けプロジェクトが終わりしだい彼を解雇したのだろう、フリーマンは姿を消した。
もう一人はフランク・ワトソンと名乗るセールスエンジニアだった。彼はフリーマンとは反対に政裕に対して高圧的で見下す態度をとっていた。ミプラコで政裕が手がけた仕事でコミッションを稼いでいた。彼にとって政裕は大事な相棒であるべきだったのだが、彼のプライドがそれを許さなかったのだろう。フランクも同じくミッキーから冷遇されるようになり姿を消した。
ミッキーはそのほかにもジョン・ホイツマと名乗るビジネスパートナーがいて、彼のパートナー解消を企んだ。ジョンは政裕と馬が合って何かと面倒見てくれた。ミッキーの金に細かい性格と好き嫌いが激しいことがわかってきた。ジョンが姿を消したのも金のことが原因だった。
ビル・マチャンダもミプラコのセールスマンだった。彼はほかにサイドビジネスを持っていた。これについては後述する。彼もミッキーとの折り合いが最悪になっていた。コミッションのことで揉め、その支払い額をミッキーが値切ったという。
ビルの言い分が契約通りだったので、ミッキーは支払わざるを得なかった。その小切手をビルに渡す時、床に放ってビルに拾わせたという話を政裕に聞かせてくれた。なんとも壮絶な労使の戦いではないか。ビルはそれがもとでミプラコを去った。
ミッキーは従業員の評価基準を多角的に見ていて例えば会社にどれだけ努力して貢献しているか、のんびりやって高いコミッションを稼いでいるセールスマンが許せなかったので、計画的に彼らセールスマンたちを粛正したのではないだろうか。コミッションの相場は高い、したがってセールスマンの収入は大きい。これに比較するとエンジニアの収入は苦労の割に少ない。
同時に北米でのミプラコの評判がセールスマンの必要性を低下させていたのも事実だった。それでそのような処分ができたのだろう。政裕の働きぶりと貢献度が給料の割に彼にとって満足だったのだろう、昇給とボーナスの額でわかった。