第二話 危険な男
コーヒーの実の取り入れと加工には手間がかかるので、農園にはいつも十人ぐらいの人が働いていた。
そんな中に一人の新顔がいた。ロレンソは、一目見たときからこの新しく来た男が気に入らなかった。しかし、初めはまじめに働いていたので、ロレンソはこの男のことをなるべく気にしないようにしていた。
ある日のこと、昼食になっても、フランシスコが食べにこないので、ロレンソは農園にむすこを呼びに行った。大声で呼んでも出てこないので、ロレンソはなにげなく作業小屋をのぞきこんだ。すると、そこに、フランシスコとあの男がいるのが見えた。
男のそばには、マリファナ(4)を吸うための道具があった。男がフランシスコにマリファナを吸わせようとしていたことが分かった。
「私の農園に、ドラッグを持ちこむなと言ったはずだ。その上、フランシスコに何をするんだ。まだ子供じゃないか」
ロレンソは怒りに体をふるわせながら言った。
「誰でもやってることじゃないですか。あんたのむすこが興味がありそうだったから、教えてやろうと思っただけですよ。なんで俺が怒られなくちゃいけないんだ」
男は馬鹿にしたように、にやにやしながら言った。この顔がロレンソの怒りを爆発させた。
「今すぐ、ここから出ていけ。二度とこの農園に近づくな」
ロレンソの剣幕に押されて出ていこうとした男は、小屋の入り口でくるりとふり向いてロレンソをにらみつけた。
「俺をやめさせたことを、そのうち後悔することになるぜ」
マリファナは大麻(5)という麻薬植物の葉や花を乾燥させたものだ。火をつけて、タバコのように吸うと気持ちがよくなるというので、人々のあいだで広まっている。大麻の花やつぼみからはベタベタする樹脂がとれた。この大麻樹脂(6)はマリファナより効き目が強いと人気があった。
しかし、大麻という植物は、人々が考えていたよりもずっと危険だった。多くの人々がマリファナに心をむしばまれ、社会から消えていった。
ロレンソは祖父が築き上げたこのコーヒー農園を誇りに思っていた。手間を惜しまず、コーヒーを育てているからこそ、外国からも買い付けに来るような質のよいコーヒー豆になるのだ。そう考えていたロレンソにとって、まじめに働くことができなくなるマリファナやコカイン(7)は許せない物だった。
ロレンソは、おびえたような表情のフランシスコを、黙って家の中へ連れていった。
「この国では、毎日、多くの人が殺されたり、誘拐されたりしている。その原因は、コカインやマリファナという麻薬だ。お前も大きくなれば私の言っている意味が分かるだろう。今は分からなくても、これだけは忘れるんじゃない。麻薬は国から平和をうばい、人から優しい心をうばうものだ。だから、マリファナやコカインは絶対にやってはいけないのだ」