「四.最適化」は、目標を達成できなくても不本意な結果に終わっても、歳をとるとその現実を上手に解釈できるようになるからだという説です。
若い頃は失敗に対して、ひどく落ち込んだり、自分を責めたりしがち。でも高齢者は様々な経験を踏まえ、また物事を上手に受け入れて咀嚼し、必要以上に思い悩まず、こだわり過ぎず、柔軟に思考して、精神的な安定を図れるようになっていきます。高齢者を対象した講座でこの「最適化」についてお話ししますと、ほとんどの人が大きくうなずいておられますから、かなり実感のあるところなのだと思います。
「五.発達」は、あらゆる喪失や死を受け入れることができるようになるから、幸福感が高まるという考え方です。
人は幼年期から段階を踏んで発達していきますが、高齢期にも同じように発達段階があり、若い頃に受け入れられなかったこと、若い頃には恐れの対象であったものを、恐れず受け入れられるようになるという段階に至るというわけです。アンケートに書かれた高齢者の声には、老いや死に向き合う心境を淡々と綴ってあり、このような段階に至っている様子が見て取れます。
「六.老年的超越」は、仙人のように世俗を超越した心とでも言うのでしょうか。
老年学では、老年的超越は「現実に存在する物質世界から、現実には存在しない精神世界へ、認識が変化していくこと」といった定義がされますが、まるで、宇宙の高みから世俗をみるような次元、時間という観念にもとらわれない、意識が過去や未来へ自由に行き来できるといったレベルの人格になっていく。それによって、幸福度が高まるという理論です。
どの説に説得力を感じるかは、人によって違うでしょうが、いずれにしても高齢期に幸福感が高まっていくことは明らかになっています。
講演の際に、「歳をとって、幸福感が高まっていると感じる方は?」と訊くと、八割くらいの方が手を挙げられます。高齢期をネガティブに捉える必要はまったくありません。高齢期とは喪失を受け入れ、乗り越えて幸福感を高めるプロセスなのです。
もし、高齢者なのに幸福感が高まってきている実感がないのであれば、この六つの視点から自身の状況を見つめ直してみるのもいいかもしれません。