辛苦の中を駆け抜けた少女
中三の新学期を前に、決意を語るかのようにアニメのキャラクター人形を胸にぶら下げ、オシャレな服装で外来に現れた。パソコンやIT技術を活かせる工業高校の受験を決意し、内申を意識し学校復帰を決めたという。
しかし新学期を迎え、通常学級への復帰にチャレンジしたものの、男子生徒から「今頃、来てどうするの?」「何でフリースクールに行かないの?」と、心ないからかいを受け頓挫した。情緒学級に籍はあるものの、中一時代の感情的しこりが残っていて行けない、知的学級では授業レベルが低過ぎると、A子は途方にくれた。
学校側は特段の配慮を行い、個室をあてがってくれた。しかし、個室学習では高校入試に必要な内申の評価の対象にはならないこともあり、独りぼっちの個別学習はすこぶるつらいものだった。
無理な登校を続けているうちに様々な身体症状が出るようになった。胃痛、頭痛、めまい、吐き気が顕著になり、生理痛も猛烈を極め、わずか三か月で体重が二kgも減少した。学校担任も心配し、そんなに無理して登校しなくていいのではと言ったほどだった。
そんな中、頻繁に腹痛を繰り返し、ついには吐血するに至った。診察の結果、胃潰瘍が判明した。夏休みの休養を得て、A子は決意を固め、休み明けを契機に通常学級への復帰を試みた。やせ細って通常学級にもどったA子をクラス仲間は温かく迎えてくれた。必死の思いで個室学習に向かう痛々しさに感銘を受けたかもしれない。
通常学級に戻ってからA子の激しい症状はウソのように和らいでいった。学習は順調に進み、学業成績も上がり始めた。復帰してまもなく、A子は社会科のグループ学習でパソコンのパワーポイントを使いこなした発表を行い、クラス仲間から喝采を浴びた。
A子は得意のパソコンを活かせる工業高校をめざし、懸命に勉強に取り組んだ。中学三年の一月、電子情報システムのある工業高校を受験目標と定め、診断書を提出した。添付の診断書には自閉スペクトラム症の診断名をつけ、下記の一文を書き添えた。
「……中三の夏休み明けからは、高校受験を強く意識、自ら普通学級に戻る決断をし、実行しています。心ないクラス仲間から変な服を着せられて写真を撮られ、それをラインで拡散されるなどとからかわれたこともあったものの学校側の対応で乗り越えることができました。中三の十月頃からは、体力が回復、登校も安定しています。小学校時代から、ほとんど学校へ行けない状況にありながら、独学で勉強し学力を維持しています。学習意欲は高く、将来に夢を託し頑張っております……」