父親失格
「お父さんの嘘つき。陽菜が嫌いだから、どこにも連れて行ってくれないんでしょう」
わたしはその日、多恵と陽菜を連れて近所のファミリーレストランに出かけていた。新店舗であることと日曜日ということも相まって、家族連れが多く、店内は戦場さながらに賑わっている。わたしたちはそのなかに混じり、どんな家族より盛大にどんぱちやっていた。
「陽奈、大声出さないの」
助け舟を出してくれた多恵だったが、こちらに非難の目線を向けながら、陽菜を抱きとめる。
「お父さんが構ってくれないのはいつものことじゃない。ひどいよね、だれと結婚したんだろうね。患者さんかな」
「いや、多恵。陽菜に託(かこ)つけて不満をぶつけないでくれ」
母さんが他界してはや二年、家庭を一手に引き受ける多恵はひとまわりもふたまわりも逞しくなった。いやむしろ、逞しくなりすぎたといってもいい。わたしとしては張り合いが出てきたと共に、昔の控えめさが恋しくもある。多恵の言うことはいちいち正論で反論の余地がない。妻の顔色をうかがうことこそが夫婦円満の秘訣なのだ。
「家族が一番大切に決まっているだろう。だからこうして食事に来ているわけで」
「それだけじゃ、つまんない」
陽菜は依然としてほっぺたを膨らませたままご機嫌ななめだ。多恵は陽菜の頭をポンポンしながら、撤退に次ぐ撤退を強いられるわたしをうかがっている。手を拱(こまね)いていると、陽菜は癇癪(かんしゃく)を起こしたようにわめき散らした。