少し戸惑った。否定されたのか?相手は顧問弁護士だ。私の考えとは違うだろう。わずかな時間であったが思いが駆けめぐった。相手はこの椅子に座ったのか? 他愛もないことが頭に浮かぶ。中村弁護士は、驚きの表情に変わっていた。
「支払うと言いました」
私の顔を見続ける。
「いやあ……支払うと言いました」
この言葉を聞いたとき、正直困った。この請求訴訟の目的は官製談合の事実認定であって、調停をまとめることではない。(どうしよう?)、その不安は、続く言葉によって打ち消される。
「支払うと言いましたが、契約書がないので請求金額の確定ができない」
ホッとした。思いどおりだ。間違いなく官製談合を認識している。支払いを急ぐ理由もそこにある。
「確定できないので裁判所で金額を決めてほしいと言うのですが、我々は話を聞くだけであって設計費の請求金額の確定をと言われても」
「村は設計費を支払うと言ったのですよね」
「えっ? ええ、支払う準備はあると、ただし請求書には請求金額の根拠が示されておらず、請求金額が妥当と判断できないと。だから、裁判所で請求金額が妥当と判断してくださいということです」
「で、どうなのです?」
「判断と言われても我々は建築のことはわからないのであって、これを判断するとなれば裁判官に話を……調停でこのようなことは……」
「村が支払うと言えば、調停員が『請求金額は妥当である』と判断すればよいのでは? そうですよね、違いますか? できないのですか?」
ムダなたたみかけをした。間がもたない。この展開は想定しており、専門家に相談する制度を知っていた。支払えないと言われることも想定して、
「建築業務専門の人に相談を」
と準備していた。