毎日必死に英語の勉強に取り組んでも単語のスペルを何度書いても覚えられない。そうしているうちに、毎日テストをすることになった。日本のテストとは異なり、授業中に「この単語書いてみて」や「この単語で文章を作成してみて」といったその場で問題を出題され記述や口頭で答えなければならないといったものだった。
このテストが始まって1か月経過した頃、私の頭の中に異変が起きた。毎日「違う」「違う」(英語でロンという)と繰り返し言われることで心が折れて、言葉が出なくなった。単身海外に渡り、語学を学ぶことが容易でないことは分かっていた。しかし、毎日「違う」と言われ、自分でも言いたいことはそれではないと分かっているけれど、正しく伝えることができず、どうしてもイラつきを抑えられなくなっていた。
7月下旬、妻が日本からフィリピンにやってきた。妻がたった1人で海外に来るのは初めての事だったため、不安しかなかった。飛行機の到着時間が遅れ、タクシーの確保に時間を要してしまい、私が滞在しているコンドミニアムへの到着は深夜となったが、合流することができた時は、安心した。これまで出張で家を空けることは多かったが、妻と1か月も顔を合わせないことは、初めてであった。
久しぶりの逢瀬と日本語で会話ができるということに、私の中のストレスが一気に吹き飛んだ。フィリピン・ボホール島のチョコレートヒルズを2人で観光し、たくさん写真を撮り、日本語での会話を満喫した。妻は仕事があるため、僅か3日の滞在で帰国することになったが、フィリピンに来て、初めて楽しいと思えた。
帰国日の早朝に妻を空港まで送り、その後は授業を受けた。どうにもならないイラつきは、妻のおかげで発散できたものの、以前に起きた異変は治らなかった。次の日も、次の日も、頭の中が「あ~う~」「そ~そ~」で止まってしまい、言葉が出てこないのである。声に出しても変わらず、日本語さえも出てこなくなった……。