この瞬間、達郎は何か糸と糸とが結びついたような気がした。ということは、以前に立てた達郎の推論を是正しなければならなかった。
つまり、
『智子は、松越百貨店の金沢店の井上シンノスケ店長という男にだいぶ惚れていた。その馴染みから、最近はもっぱら松越百貨店を贔屓にして、買物をしていた。そして、その店長と逢引きをするために金沢に行き、そこで交通事故に遭って死んだ。店長の井上は、智子が死んだことを知っていたかどうかはわからないが、いずれにしても智子は不倫の相手だったので、葬儀には出席することができなかった』
ということになる。
達郎は、今すぐにでも金沢に行って、この井上という野郎の顔が見たかったが、いったん家に帰った。もう一度何か手がかりになるものでもないかと部屋を捜索することにした。
こどもがいなかったこともあり達郎も智子もそれぞれ専用の部屋を持っていた。智子の部屋に入った。収納庫のようなものがあったが、達郎は結婚以来、それに手を触れたことがなかった。
どうせ、くだらないものを集めて取っておくだけのもので、興味が全くなかったからだ。案の定、小さな箱を開けると、何年も前のレシートの束や家電の保証書、各種クーポンや割引券、古い年賀状などが出てきた。
急ぎ年賀状をめくったが井上シンノスケからのものはなかった。その中に宅配便の控えの束があった。達郎は一応それもめくることにしたが、ペラペラの薄い紙で掴みにくかった。
全く面倒くせえなあ……。とひとり言を発した直後、金沢宛の伝票に行き当たった。
宛名は、金沢市城南町3の5の7の503井上方にして、自分宛になっている。
多分、向こうで何日かを過ごすために必要になる物をまとめて、送ったのかもしれなかった。そこそこの日数で逢瀬を楽しむためにだ。
達郎は、深いため息が出た。こんな証拠に残る物、捨てておけばいいものを。達郎は、そう思った。
ただ、結婚以来、夫がその収納庫に興味も関心も示さず、手も触れたことがないので、安心してそこに置いておいたに違いない。しかも夫は、遠く大阪に単身赴任して滅多に家には帰って来ない。
それになによりも自分がすぐに死ぬとは思っていない。だから、そんなものまで、取っておいたに違いない。
いずれにしても、これで、店長の井上シンノスケの居所がわかった。