事故に遭った妻は…
翌週の土曜日、達郎は金沢に来た。
駅前の金沢東都ホテルにチェックインした。いったん荷物を置いた後、ホテルの一階にある喫茶店に入って、コーヒーを飲みながら、フロントでもらった市内のガイドマップに目を通した。その中には、松越百貨店の位置がイラスト入りで大きく掲載されていた。
やっと、智子の行動が解明できそうだ。
達郎は、腰を上げるとフロントを出た。街は土曜日の買い物客で賑わっていた。どの人の顔を見ても楽しそうだった。それに比べて、こんなことをしている自分が、内心情けなかった。
近頃では、妻の智子の過去を暴くのに躍起になっており、仕事の方は余り良い成績をおさめられずにいた。最初のうちこそ課長の梶本は、妻が急逝したことに同情的であったが、時間が経つにつれ、いつまでたっても立ち直れない達郎を見て、徐々にではあるが見放し始めているようだった。
達郎に対する梶本の業務指示の仕方の変化を見て、達郎はそう感じていた。せっかく、同期の中でも早い昇進をして、エリート課長の下に課長代理として、抜擢されたというのに、妻智子と死別し、人生の予定の何もかもが狂い始めていた。
だが、達郎は、どうしても智子の生前の行動を解き明かしたかった。
それは、彼女の気持ちを理解していなかった自分に対する戦いのような気がしてならなかった。
松越百貨店金沢店は、メインストリートの中心部に位置していた。
一階に入った。どこの百貨店でもそうであるように、一階には化粧品売り場が競うように並んでいた。ぷーんと、香水の匂いが鼻を突いた。入店はしたものの、その後、達郎はどうしてよいものか、その具体的な行動が思いつかなかった。しかたなく、受付に行って、店長室はどこにあるのか、尋ねた。
受付嬢は、一瞬訝しがったが、きちんとした達郎の身なりを見て、ゆすり屋やたかり屋ではないと判断して、安心したのか、快く店長の所在地を教えてくれた。
彼女が言うには、店長室というのは特になく、別館の事務室の五階のフロアが営業本部関連のセクションとなっており、そのフロアの突き当たりの真ん中に座っているのが店長ということだった。
達郎は、一通り売り場を見渡した後、別館の五階に行った。
事務所の入り口には、電話機が一台備え付けられている型通りの無人の受付があった。が、来訪者は皆その存在を無視していた。
とにかく、人々の出入りが激しく、社内外の者たちの往来が引っきりなしだった。体裁の良い売り場に比べて、百貨店の事務所というのは、がさつで、乱雑であるとは聞いていたが、これほどまでにアバウトであるとは、想像していなかった。
しかし、それが幸いした。