明らかになってきたミトコンドリアの意外な姿
健康のキーワードとして、私が今もっとも注目しているのがミトコンドリアです。最近の研究で、ミトコンドリアは健康とのかかわりが深いことがわかってきたからです。では、「ミトコンドリアとは何か」とあらためて聞かれると、医療関係者でもその構造はともかく、はたらきを詳しく答えられる人は少ないかもしれません。
ミトコンドリアはほんの何年か前までは謎に包まれた物質で、その重要性も十分には認識されていなかったからです。しかし、多くの研究者の研究成果の積み重ねによって、その意外な姿や、生物の中で果たす役割がだんだん明らかになり、私たちの健康と大きく関わる非常に重要な存在だということがわかってきたのです。
そもそも、ミトコンドリアとは「細胞の中にある器官(細胞内小器官)の一つ」です(図1参照)。図2で見るとよくわかるように、形は楕円形で、内部の構造を立体的に示したものは、ひだのついたカプセルのように描かれています。その大きさは、直径500ナノメートル以下、長さは1ミクロン程度で、俵型やイモ虫のような立体構造をしています。
ミトコンドリアの形や構造は、生物の種類によって違います。この模式図には、内部に「クリステ」と呼ばれる板状のひだが描かれていますが、その形は生物の種類によってさまざまです。
ところで、一つの細胞あたり、ミトコンドリアはどれくらい含まれていると思いますか。なんと、100〜3000個も含まれているのです。特にエネルギーをたくさん使う心臓や肝臓、腎臓、筋肉、脳などの細胞には、ミトコンドリアの量も多いという傾向があります。
ミトコンドリアの役割は“エネルギー製造工場”だけではない!
ミトコンドリアのもっとも重要なはたらきは、私たちが体を動かしたり基礎代謝を促したりするためのエネルギーをつくり出すことです。しかし、ミトコンドリアのはたらきはこれだけではありません。最近の研究によって、ミトコンドリアには「アポトーシス(細胞死)」や生殖細胞の生成に重要な役割を果たしたり、体内のカルシウムを調整したりとさまざまなはたらきをしていることがわかりました。
また、「シグナル」と呼ばれる情報の伝達をはじめ、心臓疾患などのさまざまな病気や老化などにも深く関わっていることもわかってきました。このように、細胞内小器官である「ミトコンドリア」が、私たちの体の調節に多く関わっていることは驚きと同時に興味深いものです。