潜在能力を次々と明かした高校生
高校一年のT君は登校しようとすると激しい腹痛、下痢を起こし、登校できない状態が長年続いていた。
不登校状態は小学五年の頃から始まり、中学時代も保健室登校をしながら学校カウンセラーの相談を受けていた。なぜ登校がしんどく、学校生活が苦痛なのか本人自身よくわからなかった。
運動会など集団行動は苦手で友達づくりも得意でない、大勢の中にいると落ち着かなくなる、音にすごく敏感なことなどは自覚していたが、クラス替えを終えた新学期を迎えると何故か足がすくんだ。
中学時代、学校カウンセラーの相談を長く受けてきたものの学校になじめない理由が掴めないでいた。
T君は人なつこく穏やかで、終始ニコニコ顔の好感のもてる高校生だ。視線を合わせて話せるし、冗談もわかり表現力も豊かだ。多動もさほど目立たず忘れ物もしない。自分の特性について自覚もある。
発達障害を疑わせるポイントをあげれば、集団が苦手、音に敏感、発音不明瞭でやや舌足らず、味にも敏感、気持ちの切り替えが上手でない、特定領域の知識が豊富(宇宙物理学、プログラミング)、人と交流しなくても苦にならないということだった。
高機能自閉症を疑われ、WISC─Ⅲという知能検査を受けたところ、検査の得点にバラツキがあり、特に視覚的な情報処理や記憶に課題があり、ものごとを手早く処理することが苦手という結果が出て診断が確定した。
目で見る情報処理が苦手ということから、T君に探し物の件を尋ねると、意外な答えが返ってきた。
探し物は得意だという。親がうっかり置き忘れたメガネや携帯電話、腕時計の置き場所をきちんと覚えていて即座にいい当てる。置き忘れた場所の記憶が静止画像のように鮮明に思い出せるようだった。
T君にいろいろ聞き出すと、図書館や本屋の本の並び方も瞬時に全部覚えてしまうが、刻々と変わる人の顔や表情は読めないのだという。
瞬間、瞬間の静止画像的記憶は鮮明に覚えることができるものの、刻々と変化する人の表情は読めないのである。専門用語でいう相貌失認(そうぼうしつにん)という状態だ。
T君は人の顔や表情が読めないため髪型や服装や身長、声の感じ、歩き方や動き方で人物像を特定しているとのことだった。