第Ⅱ部 人間と社会における技術の役割
Ⅱ-1 社会における技術の役割
3. 知的認識の向上
技術の発達によって科学が発展し、人間の持っている知識が向上してきたと見ることができます。最初にニューコメンやワットが蒸気機関を発明したときには、まだ熱と仕事とが等価だということがわかっておらず、エネルギーという概念もありませんでした。
熱機関などの技術の発展を受けて1794年、フランスに世界で最初の高等理工学校(エコール・ポリテク)が建てられ、フーリエやラプラスなどによって、現代の工学に欠かせない数学が作られ、エコール・ポリテクの学生であったカルノーが理想的な熱機関から得られる仕事「カルノーサイクル」を考察しました。
1847年にイギリスのジュールが水の器のなかで羽根車を回す力学的な仕事を行うと、水の温度が上昇することを示す実験を行い、熱と仕事が等価であることを実験的に明らかにしました。このような技術の発展と科学的知見の前進とが図表1に示すように相互作用しながら、エネルギーという概念も普通に使われるようになってきたのです。
地球や宇宙に対する認識は、望遠鏡やロケットによる宇宙探査機の技術が大きく役立っています。月のクレーターがどうしてできたか、火山の噴火によるものなのか、隕石の衝突によるものか、地球から見ているだけではよくわかりませんでした。
アポロ計画で実際に月の石を地球に持ち帰って分析してみると、月の石は地球上の石よりも古いということがわかりました。
どういうことかと言うと、地球では中心にマグマがあって溶けており、マグマの流れが地面に到達して冷えて地殻になり、この地殻が動いて(大陸移動:プレートテクトニクス)ぶつかり合い、また地中のマグマに戻っていくという循環をしています。したがって、地球上にある岩石はマグマから固まってはまたマグマとして溶けているので、発見された一番古いものでも20億年ぐらい前のものでした。
ところが、月から持ち帰った石は40億年前にできたものだったのです。つまり、月が45億年前にできて、冷えて固まったときの石がそのまま残っていたのです。月にはマグマがなく、中心まで冷えていますから地球のような大陸移動がなく、40億年前に月表面のマグマが冷えて固まったときの状態がそのまま残っているのです。
したがって、月の表面のクレーターも38〜40億年前、まだ月の表面が柔らかかったときに隕石が衝突してできたものだということがわかってきました。やはり実際に近づいて見てみること、触ってみることが大事、つまり「百聞は一見にしかず」ということが言えるのです。
ガガーリンが最初に人工衛星に乗って「地球は青かった」と叫んだことは多くの人に知られています。宇宙から見た地球の映像が届き、地球が宇宙に浮かぶ、大気と雲に包まれた水と大陸の青い球体であることを見たことは、私たちがこの地球に住んでいるという実感と認識を深めたと思います。