第Ⅱ部 人間と社会における技術の役割

Ⅱ-5 技術と科学

7. 研究不正はなぜ起こるのか?

さて、研究不正が発生する背景について考えてみましょう。

科学的栄誉のための先取権争い、助成金獲得競争があります。研究者は、より早く研究成果を発表して、栄誉を獲得したいと考えます。研究成果が上がってくると、その研究に対する助成金も獲得しやすくなります。そのせいで、十分な確認をせずに研究成果を発表してしまうことが起こりやすくなります。

地位、研究費、世間の評判の獲得などが、不正行為を誘発する要因となります。研究者に対する評価が、論文の質よりも、どれだけの論文数を出しているかという量の評価になりがちです。

そして、どれだけ研究論文を出しているかが、准教授や教授に昇任できるかどうかの基準になっています。また、研究費をどれだけ取得しているかも、昇任を審査する上で評価されるようになってきました。そのため、不十分な内容でも論文投稿したり、思いこみで成果を発表したりするといったことが起こりやすくなります。

研究費獲得のための誇大な表現が要因ともなります。研究を推進するためには研究費が必要ですが、大学の通常予算では十分な予算がないため、その研究を進めることにこんなに意義があるということを書いて、いろいろな助成金の申請書を作成します。

申請書が採択されるためには、その研究の意義、研究成果獲得の見込み(実現性)、準備が十分できていること、将来性などをアピールしなければなりません。申請書のなかでは、これらのことを誇張して書きがちです。そうすると、想定していた通りには成果が出なかったものでも、こんな成果が上がったと見せることが起こりがちです。

ブラックボックスとなったデータ処理も、間違いを起こしやすい要因となっています。コンピュータや電子機器が発達し、実験や解析のデータの処理が大変に便利になりました。以前は手計算していたようなものも、ソフトウェアに組み込まれているプログラムで処理したりして表示することが多くなります。

そうすると、そのプログラムの意味をよく知らずにデータ処理をしていたり、データの処理過程でも、例えばAのデータとBのデータを比較するはずなのに、AのデータとCのデータを比較していたり、BのデータとCのデータが入れ違っていたりなどといった間違いを起こしやすくなります。このような間違いが、捏造となってしまう危険もあるのです。

以上のようなことを踏まえて、若い学生の皆さんは自分たちの普段の行動を振り返ってみましょう。

・捏造:自分の勝手な思いこみをしていないか。「誰も見ていないからいいだろう」ということがないか。

・改ざん:自分の都合のよいようにデータを直したりしていないか。実験の結果を率直に見ているか。

・盗用:他人のアイデアや成果を勝手に自分のものにしていないか。人のレポートを写して出せばよいと考えていないか。インターネットからの引用を明記せずに、そのまま自分の意見として記述していないか。自分なりの考えを常に持とうと意識しているか。