第二章 道徳と神の存在
さっそく、勉が2人に割って入るように言った。
「ちょっと、ちょっと、2人ともまあ落ち着けや。2人とも、全く間違ったことを言っているとは思わへん。俺は宗みたいに思うことも、茂津みたいに達観することもできひん。この世の中をどう捉えたらええんか、分からんのや。神というものの存否を含めてや。
まず初めにやけど、宗は一部の若い女性を強烈に批判したけど、個人の資質だけで語るのはどうなんやろと思う。恐ろしいほど無慈悲な母親を弁護するつもりはないけど、現代の社会的要因がそうさせてる部分もあるんとちゃうかと思う。
今は、昔と違(ちご)うて、家族構成も働き方も大きく変化してしもた。大体、三世代の家族が一つ屋根の下で暮らすなんて、ほとんどないやろ。夫婦と子供だけか、老夫婦だけの核家族がほとんどや。
そやから、若夫婦が育児について身近に相談したり、場合によっては、若夫婦をたしなめたりする人が家庭内におらんのや。昔は、爺ちゃん婆ちゃんと一緒に暮らしたから、爺ちゃん婆ちゃんの経験から得た育児の知識を若夫婦に教えるというか、伝えることができたんや。
それに、若夫婦が子供を虐待しようとしても、爺ちゃん婆ちゃんがそれを止めたり、若夫婦をいさめたりしたはずやろと思う。今はそれがないんや。爺ちゃん婆ちゃんが家庭におらんからな。若い母親は家庭の中に育児について相談する人がおらんから、悩んで心を病むこともあるんかもしれん。
特に、共働きで旦那が育児に非協力的な場合は、しんどいと思うんや。母親が自分の子供を虐待したり、殺したりするのは到底許されへん。
けど、現代の諸々の社会的変化が、それらを招来させている一つの要因になっていることも否定できひんのんとちゃうかと思う。無慈悲な親たちを弁護するつもりはないけどな。
俺は、核家族化という家族構成の変化が、社会の至る所で、いろんな問題を発生させてると思う。大袈裟やけど、年金問題にも影響してると思う」
これを聞いた茂津は、
「へえ、面白い着眼だな」
と興味を示した。