借金地獄アメリカの破壊
ドナルド・トランプはアメリカ株式市場と世界の投資家からの大きな期待を受けて2017年1月20日に第45代大統領に就任した。
トランプの減税、規制緩和、防衛費と重要なインフラ事業にかかる支出の大幅削減といった公約はロナルド・レーガンの台本から切り取ったものだった。
事実、トランプに近しい経済アドバイザーは、デイビッド・マルパス、スティーブ・モーア、ラリー・カドロー、アート・ラッファー、スティーブ・フォーブズ、ジュディ・シェルトンらであるが、彼らは1980年代のレーガン革命時のベテランだった。
トランプは減税と更に大きな赤字で、野獣に餌を与える気充分だった。しかし野獣はすでにブッシュ43代とオバマから受けた戦費と進歩派への支出で腹一杯になっていた。
トランプの手元はスッカラカンだった。トランプのアドバイザーはレーガンの台本でやるよう彼を急かせたが、1981年当時の状況は2017年にはなかった。
レーガン時代の35パーセントの債務の対GDP比率は遠い昔のことだった。トランプが引き継いだのは105パーセントの債務の対GDP比率だった。
彼の政権にはすでに財政刺激策を実施する余力は無く、この巨額な債務を抱えながら、いわゆる景気刺激政策が効力を持つか、かなり疑問視されていた。
アメリカの信用力がいつの間にか疑われる状態になっているにもかかわらず、トランプ政権の最初の2年はホワイトハウスも共和党主導の下院も無謀な財政政策を実施した。
2017年の後半、下院はトランプの減税案を承認し、今後10年をかけて2.3兆ドルの債務を増加することになった。減税は税の歳入に中立的であるべきという条件をこっそり放棄した上でのことだった。
歳入に中立的な減税に関して言うと、下院とホワイトハウスはラッファー曲線理論を根拠とした。この理論によると減税は経済成長を促進するので、その新たな成長により生じる所得への追加的税が、減税分を補うというのだ。
現実の世界において、特に税率が極端に高いケースで実施されれば別であるが、ラッファー曲線理論を証明する経験事例はない。ラッファー曲線理論はおおむねフィクションであり、オバマがよりどころにしたネオ・ケインジアンの乗数理論と同じ代物だ。
2018年1月減税法案が通過した数週間後、下院は防衛費と国内裁量支出の支出限度を取り払った。共和党は防衛費を増額したいと思い、民主党は国内支出を増額したかった。
彼らは両方することで妥協した。この支出限度の取り外しにより今後2年間で3,000億ドルの赤字が追加(これらの支出増には、2017年会計年度のハリケーン・ハーベイ、イルマ、マリアそれにカリフォルニアの山火事に対する予算外の災害救援金約1,400億ドルは含まれない)された。
この減税と支出増の組み合わせは、1兆ドルの年間赤字への復帰であり、これによりアメリカの債務の対GDP比率は105パーセントから115パーセントに押し上げられるという警告となっていた。
外国の投資家はアメリカの債務が音をたてて崩れるかも知れないと感じ、アメリカ財務省証券の保有を減らし始めた。2010年以降オバマの赤字が表面化した頃から、アメリカ財務省証券の外人投資家による購入は差引ネットで減少し始めた。
その購入は確実に減っていき、2016年には差引ネットで買いであったものが売りに転じた。アメリカの債務危機を予想して、アメリカ財務省証券からじわじわ逃げ出す動きが始まり、勢いをつけようとしている。