光秀は橋を渡り、搦め手門の前に立った。「御頼み申す」光秀は門前で呼ばわった。門の横の木戸が開いて、鉄の胴衣に顔に半面(はんぶり)を付けた門番が顔を出した
「何者だ、ここを雑賀の孫一様の城と知って訪ねて参ったか」
「はい、拙者美濃の浪人、明智十兵衛光秀と申す、堺の商人千宗易様の添え状を持ってお尋ね致した、御当主にお眼にかかりたい」
「千宗易様の添え状とあれば、殿もお会い致すであろう、しばらく待たれよ」
そう言って奥に引っ込んだがしばらくして現れ、光秀は本館の一間に通された。孫一はすぐに足早にやって来た、立ったままで右手を顔の前で挙手し、挨拶した。
その出で立ちは半袴(はんばかま)に脛当てを付け、胴衣の上に皮の陣羽織をはおり、左手には鉄砲を携えていた。光秀は慌てて会釈をし、名乗った。
「美濃の浪人、明智十兵衛光秀と申す。先般堺を訪問した折、千宗易様より貴殿の話を伺い、是非その鉄砲とやらの扱いについて、教えを請いたいと存じ参った次第でござる」