王子様はそのたびに、くすぐったがったり、痛そうにしたりして逃げ回りました。そして
「ぼくはまだここにいたいんだ」
と、言いたげにすました顔で池を泳ぎまわっていました。王様は
「我が家に変り種ができた」
と、むしろ喜んでいるようでした。秋が来ました。寒い風が吹く前に王様とお后様は裏庭の大きなふるいシイノキの根元にある宮殿に帰らなければなりません。
そこで毎年冬の間眠りにつくのです。
しかしオタマジャクシの王子様をそこにつれてゆくわけにはゆきません。オタマジャクシは水の中でしか生きられないからです。
「大丈夫。ぼくはここで冬を過ごすから」
王子様はそう言うと、池の中から元気よく手をふりました。冬眠から目を覚ますと王様とお后様は心配しながら池にやってきました。
一回り大きくなった王子様が元気で泳いでいました。手も足もぐんと太くなっていました。でも、相変わらずしっぽがついていてオタマジャクシのままでした。
それはそれは上手に水草の間を泳ぎまわっていました。メダカがこわがって右往左往しています。
夏がきてまた秋がやってきました。王子様はやはりオタマジャクシのままでした。
王様とお后様は心配しながらもまた冬の宮殿に帰ってゆきました。