第一章 愛する者へ 4
中学校の入学式があった日の夜、部屋にいた若葉に、
「これ」
と言って、霞がDVDの入ったケースとパソコンを持ってきた。
ずっと気にはなっていたが、今日渡されるとは思っていなかったので不意を突かれてしまい、またもどのような反応をしていいのか分からなかった。
DVDを渡すときの表情から、霞も『アフターメッセージ』を楽しみにしていることが伝わってきた。
――ママへのは、いつ届いているのかな――
自分に届くときは霞には分かっているのに、霞に届くときは自分には分からないのは、不公平な気がした。
新は青いポロシャツを着ていた。一昨年の父の日に霞とプレゼントしたものだった。
「中学進学、おめでとう」
新は笑っていた。
「若葉は体を動かすのが好きだろうけど、運動部は練習が厳しいところが多いから、文化部がいいと思うよ。大人になってからも趣味としてできる吹奏楽とか。若葉は料理が好きじゃない。料理の部活があれば、そういうのもいいと思う」
新は笑ったままだった。
「勉強はね、できなくてもいいよ。本当にそう思うよ。だから、成績が悪くても悩まないでね」
――つまらない――
若葉がそう思い始めたとき、新が沈黙した。
「若葉、ごめんね」
笑顔が消え、口調も変わった。
「若葉のことが心配だよ。もしいじめられたら、学校に行かなくていいからね。何もしてあげられなくてごめんね。でも、若葉をいじめるようなやつは、あっちから呪ってやるからね」
真剣な表情で言うので、冗談で言っているのか本気で言っているのか分からなかった。
「パパ、若葉といたいよ……若葉のことが大好きだよ」
新の目から涙が流れた。
「じゃあね……またね……ママのことよろしくね……」