「あなたって近衛騎士にぴったりだと思ったの。」
ラウルはきょとんとした様子でベスを見た。
「ありがとう。」
ビクタスは水を飲みに川岸へ戻っていた。そして二人が戻ってくるのをじっと見守っていた。
ラウルはビクタスの鼻を優しく撫で、麻袋を背の手綱に括りつけた。ベスはそっとラウルに背中を向けて、自分の右手を左手の手首に当てた。鼓動が速くなっているのを感じた。
トレイシアの言う通りだわ……。
「べス、それは何だい?」
ラウルはいつの間にかべスのすぐ後ろに立って、覗き込んでいた。
「昨夜も僕の手をとってそうしてただろう?」
ベスはぱっと手を離した。
「ああこれ? 脈を調べていたの。心臓の速さよ。ここを押すと鼓動の速さがわかるのよ。医者がよくするでしょ? 見たことない?」
「知らない。それも姉君から教わったの?」
ラウルは興味深げにベスの正面に立った。
「そう。」
「色んなこと知ってるんだな。」
ラウルはベスの方へ手を伸ばした。
「僕にも教えてくれる?」
ベスは慌てて手を引っ込めた。
「いいわよ。でも自分の手でやってみたらいいわ。」
ベスはラウルの手を取って、脈の取り方を教えた。「へえ。本当だ。これが心臓の動きと同じなんだね。」
ラウルは感心したように言った。
「そうよ。だからあなたはとても冷静だって言ったの。狼に囲まれても鼓動が落ち着いていたから。」
ラウルはますます感心したようにべスを見た。
「そんなこともわかるのか。」
ラウルは納得したようにうなずいた。
「べス、君のもみせてよ。その……もし嫌でなかったら。」
ラウルの慇懃な態度にベスは断れなくなってしまった。
「……いいわよ。」
ベスはおずおずとラウルに右手を差し出した。ラウルの美しい長い指がベスの手首におかれた。ラウルは真剣な眼で脈を数えているようだった。ベスは心配そうに
「だいぶ速いね。」
ベスはぱっと手を離した。
「私は速いの。いつもの自分の脈を知っておくといいわ。」
「そうか。わかった。ありがとう。」
ラウルは嬉しそうに笑った。