優輝と慶三

入口で立ち止まっている小さな男の子と目が合ってしまった永松には、さらに動揺が広がった。あの人の面影が重なる目鼻立ち。ただいまって言ったよな。確かに言ったよな。ああ……これが現実か。

学生の甘さを遮断する社会の現実という壁。実に短い片想いであった。永松が巡り合わせの不幸を受け入れて嘆き始めた時――。お待たせしましたー、とその本人が奥から現れた。

「あ、優輝。帰ってたのね。……どうかした?」

空気を読む能力が低い未代は、至ってのどかな声で優輝に微笑んだあと、そのままの笑顔を永松に向けた。前かがみでしおれていた永松の背筋は、電気が流れたようにぴんと伸びた。

そして心の底に着きかけていた恋メーターの針も、一気に垂直まで持ち直した。間違いない。やはりこの人は天使だ。今まで生きてきた中で、こんなに心が熱くなったことはない。理屈ではない。理論や世論で決まるのではない。この人は俺にとって特別な人なのだと、揺るぎない確信を持った瞬間であった。

「ママー。このお兄ちゃんは誰なの?」

あどけない顔の優輝の質問に、三人は一斉に耳を傾ける姿勢になった。木村たちの発する気配に触発されて目覚めた慶三は、違和感を悟られないように、優輝としての振舞いを慎重に演じていた。

「永松悟君よ。今日からアルバイトで、お店手伝ってもらうことにしたの。最近お客さん増えて、一人じゃ手が回らなくなったから」

「ママの知り合い?」

親子にしか許されない短くて明瞭な問いかけで、三人の顔に真剣味が増した。

「ううん。大学の求人票見て応募してくれたの。今年三回生で、時間割の関係で火曜日と土曜日だけね」

「何回目の三年生だって?」

すかさず原田が訊いた。