早口の甲高い声でそう言い、自転車に乗って一目散に去って行った。
秋の夕暮れはとても綺麗で少しひんやりとした風は余計に感傷的な気分にさせた。私は振り返らずにジムニーに乗った。私も涙を流していた。
たった一人で東京へ来たけれど、色んな人との出会いがあり、色んな人が応援してくれて、色んな人に慕われて、私は今日も生きている。
「橋岡さん、春になったらお仕事が早く終わった時に一時間くらい家に寄ってくれないかしら? 私、またパソコンを頑張ろうと思うの」
「是非。宜しくお願いします」
本当はパソコンなんてどうでもいいのだろう。独り者の女同士、ぺちゃくちゃお喋りをするべきなのだ。お茶でもしながら一時間くらいお喋りをしよう。
そうだ、札幌からお土産を買って来よう。『白い恋人』じゃつまらないかな。ラベンダーの香水だっていらないだろう。
「ねぇ、橋岡さん。ボケないようにするにはどうすればいいかしら?」
その言葉を思い出した。会話に花咲くものを見つけ、写真を見せ、お土産話と共に一時間くらいお邪魔をすることにしよう。
お茶でもしながら一時間くらいお喋りをしよう。