第Ⅱ部 人間と社会における技術の役割
Ⅱ- 1 社会における技術の役割
2. 人間能力の拡大
技術を人間生活に活用することは、まず人間の持っている能力を、技術を用いて拡大していると見ることができます。人間の能力の拡大として思い浮かぶものを図1に示します。
まず、「人間の力を拡大する」ことです。メカニズムというものは、重い物を持ち上げたり、運んだりするための道具に使われました。テコを用いて重い石を持ち上げたり、ローラーを地面に並べてその上に物を載せて転がしたりして、人間の力で直接には持ったり運んだりできない重量物を動かす機構が工夫されたのです。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、1500年ごろ活躍した発明家でもあり画家でもありましたが、彼のスケッチ(アイデアノート)には数多くの荷役機械、つまり重い物を持ち上げて運ぶクレーンなどの図が描かれています。当時はまだ人間や家畜、風力や水力などの自然の力を利用する技術でしたが、蒸気機関の発明後、人工的な動力を作り出すことで、飛躍的に大きな力を利用することができるようになったわけです。
次に人間の行動範囲の拡大、つまり動くことの拡大です。鉄道や車、船、飛行機などによって、人間の行動範囲が世界中に拡大しました。これによって通勤距離も大きく拡大しました。通勤に費やす時間を1 時間とすれば、車であれば半径30km程度、電車であれば半径50km程度の円内が通勤圏となります。東海道新幹線ができるまでは東京―大阪間を7 時間かかっていましたが、新幹線によって2 時間半で着けるようになりました。さらに飛行機を使うことによって、東京からヨーロッパやアメリカへ渡る時間も10~15時間程度になりました。
そして、身近な生活環境における労働の低減、快適性の向上があります。洗濯機のないときは手洗いしかありませんでしたが、現在は洗濯機のなかに汚れ物と洗剤をほうり込んでスイッチを押せば、洗濯・すすぎ・脱水を全自動で行ってくれます。
冷蔵庫によって食材の保存や冷凍ができるようになりました。調理器具も大変便利になりました。エアコンによって暑い夏でも室内では快適に過ごせるようになり、暖房器具によって寒い冬も室内では暖かく過ごすことができるようになりました。
生活を快適に過ごすためのこうした技術が身の回りにあふれています。