踊る大紐育

ナイトクラブを梯子する六人だが、ヴェラ=エレンが姿を消す。

ギャレットがジーンのためにアリス・ピアースを呼び寄せるが、もとよりヴェラ=エレンの代わりにはならない。一人落ち込むジーンを皆で慰めるナンバー、“おまえから離れない”。

凝った振付けもなくバーのカウンターの前で繰り広げられるナンバーだが、その楽しさがジーンを慰めるストーリーの展開にピタリとはまっている。

アリス・ピアースの芸の上手さもよくわかる。

ピアースを家に送ったジーンは近くの壁に貼られたポスターの脇で物思いにふける。

“ニューヨークの一日”が始まる。後年彼はこのナンバーを失敗だったと語っている。登場人物をダンサーに入れ替えたことで観客が混乱し、ストーリーとの関連性がわかりにくくなったというのだ。

しかし、本格的なダンスを見せたいならそれなりのダンサーを投入するのは仕方がない。一工夫する必要があったのはストーリーをそのままなぞったような振付けの方だったのではないか。

そしてその反省に対する回答が、後の「巴里のアメリカ人」におけるフィナーレのバレエにあるのではないかと思う。

最後は再び俯瞰で港の風景を撮し、駆けつける三人の女性、キスをするそれぞれのカップル。そして軍艦からは新たな水兵たちが飛び出して来る。

彼らが“ニューヨーク・ニューヨーク”を歌い、映画は終わる。

「踊る大紐育」は映画として、ことさら深刻なテーマを掲げたり、複雑なストーリーを描いているわけではない。

それどころか物語はエレノア・パウエル主演の映画に較べてもきわめて単純で、単に水兵が女性を探してニューヨークを一日駆け回るというだけの話である。

しかし「踊る大紐育」はジーンの最高作といわれる三作品(他に「巴里のアメリカ人」、「雨に唄えば」)の中でも最も無駄が少なく、ストーリーがテキパキと進行していく印象を受ける。

すべてのナンバーがストーリーの展開を助け、登場人物の描写を深めている。すべての要素が話の流れを進めるために有機的に作用している。