踊る大紐育

たまたま降りた駅で写真撮影をしていたヴェラ=エレンに出くわしたジーンは、是が非でも彼女を探そうとする。

駅を出た一行が乗ったのがベティ・ギャレットのタクシー。一目見るなりシナトラを気に入った彼女は強引に誘う。展開があまりに早すぎて心理描写も何もないようだが、二十四時間の三人の活動を百分ほどの映画で描ききるという切迫感の中では、この安易さが逆にありがたい。

ベティ・ギャレットのさっぱりしたパーソナリティーのおかげで強引さに嫌みがない。博物館に向かった四人は恐竜の骨格標本の前で人類学者のアン・ミラーに会う。

声を掛けるマンシンに「興味があるのは純粋に学問的な意味よ」などと言うが、ギャレットと同じようにあっという間に彼が好きになり、「大昔の健康な男が好き……」と“先史時代の男”のナンバーを歌い踊る。

アン・ミラーの見せ場を作るためのナンバーとも言えるが、他の四人が適度に絡んで親密さが浮き彫りにされる楽しい場面となった。

もちろん彼女のミュージカルタップの上手さも堪能できる。三組に分かれて探すことになり、シナトラはギャレットのタクシーに乗る。

相変わらず名所見物をしたいシナトラと自宅へ誘うギャレットの掛け合いが歌になるナンバー、“家に来なさい”。

四十年前のガイドブックを手に昔の名所に行きたがるシナトラとあくまで強引なギャレットの言い合いが楽しい。ストーリーの展開から外れず、二人の性格もよくわかる。

ギャレットの家に着くとルームシェアをしているアリス・ピアースが風邪で休んでおり、くしゃみをして二人の邪魔をするのがおかしい。

彼女だけはブロードウェイ版に引き続いての出演である。音楽堂で酒好きの女性教師からダンスのレッスンを受けているヴェラ=エレンを見つけたジーンはデートを申し出るが、ぶしつけな話しぶりに彼女は怒る。

謝るジーンが郷里の田舎町の話をすると、実は同郷のヴェラ=エレンはニューヨーク生まれを装いながらも興味を示す。ここからジーンが田舎町の様子を歌い、二人で軽やかにタップを踏む“メイン・ストリート”が始まる。

他の二組のカップルと対照的に、ここでは互いのやり取りや葛藤が時間をかけて描かれ、次第に心が通じ合う過程がダンスを通して表現される。

場面は変わって午後八時のエンパイヤー・ステート・ビルディングの展望台。シナトラとギャレットがロマンティックに歌うのが“君は恐ろしい”。「君は恐ろしいほど素敵だ……」と逆説的な言葉を重ねながら互いの恋心を歌うナンバー。