俳句・短歌 短歌 故郷 2021.04.30 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第51回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 有り難や入れ歯で食し眼鏡掛け 自転車に乗って街中走る 近づいて我を突々ける奈良の鹿 人懐こさが何と愛らし 雨上がり青空の中常磐ときわにと 合掌造りに架かる虹哉
小説 『恋愛配達』 【第15回】 氷満 圭一郎 配達票にサインすると、彼女は思案するように僕の顔を見つめ「じゃあ寄ってく?」と… 「本業は酒屋で、宅配便はバイトです。ところでさ」ぼくはたまらず差し挟まずにはいられない。「さっきからなんなの、どっち、どっちって?」「だってあなた、ドッチ君だもん」「何、ドッチ君て?」すると瞳子さんは、ぼくの胸に付いている名札を指差した。これは配達者が何者であるのか知らせるために、運送会社から貸与されているものだ。ぼくの名前は以前病室で宴会を開いた時に教えていたはずだが、漢字までは教えていない。…
小説 『星空の下で』 【第16回】 つむぐ 亡き父は「市民全員の幸福」を切望していた。今の市政を見たらどう思うだろう…。 アパートの部屋に戻ると、さっとシャワーを浴びてベッドに向かった。三十代に入ってからは、疲れがなかなか抜けない。肩こりに眼精疲労。まとまった休みが取れないため、部屋にマッサージチェアまで導入したが、洗濯物置き場と化していた。私は横になると、泥のように眠った。今日は一日、休みをもらえたので、とことん眠るつもりだ。しかし、五時間ぐらいで、着信音に起こされた。携帯電話の画面を見ると、母の顔写真。「何、ど…